展覧会の2年前のこと(2)

展覧会BLOG

『木の家具を伝える場所へ』

2017年8月、福山の若葉家具さんの家具工場を視察した後、一行は府中市へ。

左:家具の運搬用に工場の床に設けられた滑車  右:板の表面を均等に削る機械。職人さんがひたすら集中して作業をしていました

府中のまちに開くお店・企業

福山の家具工場が集まったエリアから車を走らせること15分ほど。道中の車窓からは広い川の流れがおおらかで、なんとも気持ちいい。山と海、川がいつでも身近にある自然豊かな景色が魅力的でした。

Nichimanというゴム会社の隣にある「GLOBAL SHOES GALLERY」

府中のまちを移動中に、ニチマン(Nichiman)という地元のゴム会社が営む「GLOBAL SHOES GALLERY」へ。ニチマングループは「日満護謨工業株式会社」として1933年に設立され、製靴用板ゴムおよびゴムタイルの製造などを行う地元企業だそう。

店内は入り口側にゆったりとしたカフェスペース、奥に同社の靴製品が陳列されています。もちろん靴底は同社のゴム製品

同社の靴製品を選びながら、カフェで友人やお店の人と談話したり、なんとも居心地のよい店内。靴のデザインもおしゃれで、東京の吉祥寺にも店舗がオープンされているそうです。「府中のまちの中でも魅力的な場所ですね」と若葉家具の井上さん。
ちょっと靴が見たくなった時にも、そして誰かとの待ち合わせ場所としても。地元企業の工場というと突然見に行くことはできないけれど、こういうお店があることで企業が街にひらくことができるんだと気付かされます。

左:カジュアルからフォーマルまで多彩なラインナップが 右:カフェコーナーにて。店員さんも話しやすそうな方ばかり

地域の名産を伝える「道の駅」

続いて一行は府中の道の駅へ。

屋根の形状がなんとも印象的なアプローチです。

あいにく閉店17時を過ぎていたので、全体の様子を拝見するのみでしたが、こちらも木をつかった物販用の家具が置かれていたり、地域の情報を伝える冊子なども置かれていました。

大きな屋根がかかった通路をはさんで、野菜や地域の特産品を販売するコーナー、飲食エリアや物販エリアがあります

飲食コーナーには小泉さんがデザインして若葉家具さんがつくった家具もあります。

テーブルも椅子も小泉さんデザイン・若葉家具さん製作の家具

広島県の東南部内陸地域に位置する府中市。備後地区ともいわれるこの地域では、味噌や繊維製品など特産品のほか、家具、ラジオコントロールヘリコプター、ラバータイル等、日本一を誇る工業製品が数多くあるのだそう。
このまちを訪れた人が立ち寄る場所に、地元の「府中家具」に気軽に触れられたり、名産の食に出会えるようになっていることはすばらしいことだと感じました。府中のお好み焼きと家具が一つのガイドマップになって配布されていたり、楽しい冊子も。

暮らしの音『のとこ』を訪ねて

そしていよいよ、この日の視察の最後の行程、「暮らしの音『のとこ』」に到着。ここは若葉家具さんの本社屋の隣にある家具のショールームです。
同社で「kitoki」というブランドがスタートしたのが平成20年。その4年後にショールームが改装され、この『のとこ』が生まれたのだそう。店舗デザインも小泉誠さんによるものです。

暮らしの音『のとこ』

- のとこWebサイトより -

“のとこ”は、
もともと若葉家具のショールームとして
その時代を築いていました。

そんなショールームを、
これからは家具を見に来るひとだけではなく、
小物や食器を見に来てもらえたり、
親子で木のおもちゃを見に来てもらえたり、
時には、ただただ気分転換のために、
いろんな椅子に座ってもらうだけだったり。
そんな、何気のない毎日の生活に寄り添える、
みんながあつまれる場所にしていきたいと考えながら
“のとこ”のお店づくりははじまりました。

のとこの店内に設けられたカフェエリア

店内で、同社代表の井上さんからお店の歩みや、若葉家具としてこれから考えていることをご説明いただきました。

左が若葉家具の代表取締役である井上隆雄さん。写真奥の小泉誠さんとkitokiの家具づくりで長年協働されています

広い店内スペースには、誠実につくられた木の家具や、暮らしを魅力的にしてくれる生活道具もたくさん紹介されています。
kitokiや若葉家具の製品だけでなく、家具デザイナーの小泉誠さんを介して「kaico」シリーズや徳島の「テーブル工房kiki」さんの木の小物や雑貨、「宮崎椅子製作所」の椅子なども「のとこ」で購入することができます。小泉さんが関わったものづくりを伝える場としても、最大規模の場所と言えるかもしれません。

『のとこ』一階ショールームを望む。この場所以外に2階にも広い家具展示室があります

下の写真に写っている二つテーブル、違いがわかりますか??
卵型の局面をもった天板に、脚部が斜めの角度で接合されているこちらのテーブル。実は写真奥がもともとの製品の形なのですが、使い手の声や製造の現場での意見をもとに、脚部の取り付け位置や角度を変えて改善を図り、手前のかたちに変わってきたのだそう。

テーブルの廻りを歩く際に脚部に人の足があたりづらく、そしてプロポーションもより天板の形状が強調される形になっています。

使い手やつくり手の声を聞きながら改善を図られてきたテーブル

店内を歩くとそこここに家具がしつらえられていて、気軽に触れたり座ったりして試すことができます。実際に、家づくりの計画をしているご家族が『のとこ』を訪れて、家具をたしかめたり、オーダー家具のデザインやコーディネートの提案を受けたりしているそう。

左:ショールーム横の庭にしつらえられた外家具 右:庭を眺める窓辺に置かれたベンチ。ギャッベとの相性も素敵です

お店の視察をさせていただきながら様々な意見交換がされる中で、小林建設の小林社長と井上さんのお話が印象的でした。

小林社長:
「地域の工務店として木の家づくりを提案していく中で、『なんでもつくれます』という伝え方ではなくて、つくり手が自信を持って“これがいい”を提案できることが大事。それは家だけでなくて家具も同じ。その提案に小泉さんがデザインして誠実につくられているものがあるということが非常に大事になってくる。
今のお客様はいそがしくなってきているから、ある程度こちらから考えをまとめていくようにサポートしているけれど、大切なのはお客様であるご家族が、『自分たちで選別をした』と感じられるようにきちんと寄り添うことなんだ……」

左:樹種ごとのタネの形につくられた「果実盆」 右:kitokiのテーブルやベンチ

井上さん:
「これは展覧会や家具のお店で展示する機会を重ねながら僕たち自身も体感して気づいてきたことなんですが、小泉さんがデザインした家具は、それ単体が強烈な個性を発するという類のデザインではなく、空間とともに『しつらえ』をした時に、その場所に調和しながら全体としての独特な空気感、居心地の良さを生み出してくれるものです。
若葉家具でもオーダー家具のデザインをしていますが、小泉さんのデザインに宿る説得力は、やはり特別なものです」

「若葉家具ではこれまで家の形がきまったあとから家具の計画に関わらせていただくという場面が多かったのですが、自社の家具工場を持ち、家具職人たちがいるという強みを活かして、例えば棚板など家具のパーツから一緒に考えはじめたり、住まい手の方に『家具から住まいの魅力を一緒につくっていく』という提案もしていきたいと考えています」

家具メーカーとデザイナー、工務店。
それぞれの強みを活かして協働していく

全国の産地を駆け回りながら、各地のつくり手と顔をあわせてものづくりを一緒になって考えてきた家具デザイナーの小泉誠さん。そんな小泉さんと出会い、10年間の時間をかけて「kitoki」のブランドを共につくりあげ、育ててきた若葉家具さん。職人の手仕事の価値を再考して、家づくりの現場から現代の民藝運動を起こしていこうと集結した「わざわ座」の工務店メンバーたち。

三者の強みを活かして、家具や家づくりから暮らしの魅力をより高めていくことを目指すこの協働は、今はじまったばかりです。

「のとこ」で記念撮影

<リンク>
暮らしの音『のとこ』|若葉家具 http://www.notoco.jp/
小泉誠+Koizumi studio http://www.koizumi-studio.jp
わざわ座 http://wazawaza.or.jp/

文責:わざわ座事務局
視察:2017年8月21日

※こちらは2017年9月の記事を転載したものです。

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