減りゆく日本の手仕事
戦後間もなく、日本ではものづくりの技術が発達し、生活道具や各地の産業の発達とともに、暮らしに寄り添った誠実なデザイン活動が行われ、日本の手仕事は世界に認められた。その後、高度経済成長期の「つくれば売れる」時代が到来し、つくり手がプライドと良心を持っていいものをつくるのではなく「たくさん・早く・安く」つくることが良しとされるようになった。
多くの産業で人の手が機械に置き換わり、手仕事を活かす場所がなくなってきている状況がある。職人は仕事が生きがいではなくなり、生活がたいへんで子ども達に技術を継承させようと思うことができずにいる。
住み手とつくり手、互いの顔が見える関係の中で
大工の仕事においても、手刻みからプレカットになり、木を現しにする床の間や和室を設ける家が少なくなる中、大工の技を活かす機会が減っている。
大工の数は年々減少を続けており、1980年に93万人弱いた大工が2015年には35万人となり、このままいくと2030年には21万人に。人口減や景気低迷による住宅着工数の減少よりも、大工人口の減少のスピードの方が上回っており、必要とされる住宅の供給が今後も難しくなるとも言われている。大きな原因は大工の高齢化で、大工のなり手(後継者)も少ない。地域工務店で社員大工の育成に取り組むところもあるが、木を使う技術の習得や経験の蓄積には年月を必要とする。
そんな中、小泉さんは「住宅産業こそ、使い手がつくり手の顔を見ることができる唯一の産業」と話す。日本の山の木を丁寧に使い、心を込めて家をつくる大工の仕事をより多くの人に知ってもらうために、家具も大工がつくれる仕組みとすること。その手仕事の素晴らしさに住み手がふれる場面を増やすことで、家や家具への愛着が深まり、互いに顔が見える関係だからこそ、大切に永く使い続けたくなるロングライフなものづくりとなる。
厳しい状況はあるが、大工として、工務店として、デザイナーとして、同じ志をもつものと力を集結し、この手仕事の活動を前のめりで進める中で、自分たちが置かれている状況を何とかしたい。いま、「大工の手」は全国の大工と工務店、メーカーで取り組まれ、つくり手の意識改革とともに、技術と品質の向上も成果として現れている。
なぜ機械で家具をつくるのか
若葉家具は家具の材料となる木材の保管から製材、加工まで、自社の家具工場で機械を用いて行なっている。機械の加工によるメリットとは何か、と問われると、多くの人が「時間の短縮化や合理化」と考えるかもしれない。それも要素の一つでありつつ、それだけでは十分ではない。
かたい広葉樹の木を正確に加工するためには細かな工程を必要とする。機械に材木をセットしたり、加工をした後の仕上がり具合をチェックするにも手間と時間を要する。必ずしも、「機械を使う=早くなる」という訳ではない。
では、何のために機械を用いるのだろうか??
それは、「精密な加工を可能とし、品質をより高めるため」である。
「1000の刃物」で精密な加工を実現
若葉家具が長年の家具づくりで機械を用いる中で、欠かすことのできない大切な加工のための道具が「刃物」だった。製造する家具の形状にあわせて金物がうまれ、今までの累計本数は延べ1,000個を超える。
かたい広葉樹を、こだわった形状として細部まで美しく仕上げるための機械であり、加工なのである。
機械加工で精度・意匠性を高める
さらに、ものづくりにおいて機械加工とは、本来職人の技術を補うもの(道具)であったが、設備機器の発達はそれ以上の精度と加工技術、意匠性を発揮するようになっている。
手作業だけでは出せない正確さ(コンマ何ミリの世界)を追及できること、何度も繰り返し同じ精度を保ちながら加工ができること。また、本来手仕事では時間のかかる加工や複雑なデザイン加工について、短時間でかつデザイン性の高い加工が可能になる。